220115

あけました。何年か前から新年に絶対にあけましておめでとうとは言わないようにしていて、めでたいかどうかなんてわからないし決まってないしそもそもめでたくない状態で新年を迎える人だって山程いるわけで、それなら別に今年もよろしくだけで挨拶としては十分足りてると思うんですよね。俺も全然めでたくなくて、あの後結局猫は亡くなったし妹が一型の糖尿病と診断されたりなどして2022年がやってきました。どうにもならないことはどうにもならないまま、どうにかなるかもしれなかったこともどうにもならなくなっていくのが生きていくということです。あとまあ自分の人格としての底が見えたりと、色々行き詰まっていきそうな気配が濃くなっていますがそこから目をそらすのもまた生きていくということです。そこまでして生きる必要ある?っていうと悩んでしまうんですけど。

 

そもそもこのブログを始めた目的もそうなんですが、今年はまた小説が書けるように……なりたいのかなあ。わかんないです。元々ものづくりを神聖視する風潮っていうのが嫌いで、いやもちろん自分も読者だから好きな作品だったりその作者に対する憧れや敬意や好意っていうのはどうしても生まれてしまうものだとは思うんですけど、でもどれも結局人間のすることだよっていう意識はもっていたほうがいいし、あえて言えば結局人間にできてしまうことではあるんですよね。作為があって意図があってそうすればこうなるように配置されていてっていうのはそれこそ習えばある程度誰にだってできることなわけです。もちろん習えばある程度誰にだってできることだからこそ誰にだってできない上手さというものが取り沙汰されるんですけど。だからなんというか、いわゆる“漫画家漫画”とか“小説家の小説”みたいなメタ言及込みの作品が昔から苦手なんですよね。それが雑誌ないし単行本という形で流通している以上どうやったって(その時点では)生き残れている人の視点からの話になってしまうし、作品の中でいや作品を作るって疲れるばっかでいいことないしすり潰されてくことのほうが多いよ、という視点を盛り込んでもそれはリタイアとして描かれて結局生き残る人たちの生き残りの話になっちゃうんでしょ、みたいな。全部偏見といえばそうなんですが。だからそういう、何かを作る人達にまつわる話でありながら作ることの苦しみを決定的な悲劇にせず、作ることの喜びを他を超越した秘術にせず、というバランスの作品があると信頼できてしまって、今の所俺にとってのそれに当たるのが黒田夏子の『感受体のおどり』です。

あらすじとかは今お使いになられてる箱か板で調べてもらえば済むし、なんなら探せば冒頭もためし読みできます。雰囲気とか文体はわかると思う。どっかの本で読んだんですが小説って何を読むのかといえば文体だという話があってそれは本当にそうだと得心したんですが、この人の文体も本当にそうです。漢字をやたらひらいたり物の言い表し方が些細なことから逐一述べていったりするのを“詩情”や“文学”として飲み込む向きもあるとは思いますが、そこで止まる人はそこで止まる人なのでそこで止まる人生があります。そういう文体に出会った時って否応なく文章をゆっくりじっくり味わわざるを得なくなって、これは何についてどう書いてあってこう書くことでこちらにこういう読み方を強いることで何をどう読ませて描いているのか、ということをずっと考えさせられる。文体だけでなく全体の形式にもそれは表れていて、35個で一区切りになっている断章が全部で350個あります。もちろん1→2→3→…という順番でも普通に話は流れていきますが、1→36→71→…という順序でも話はつながっています。これを経糸緯糸と呼ぶのはちょっと違う気もするんですがだいたいそんな感じになっているので、真面目に読もうとすると最初の一区切りを10回読まなきゃいけなくなります。36にきたら1をもう一回読むし、71に来たら1と36を読むし、といった形で読まざるを得ないので、もう徹底的に読まされるわけです、そういうふうに書いてあるしそういう風に作ってある。なので単に400ページ目を通しました式の読書をするよりものすごく時間がかかって、実際に俺はこれを読むのに半年かかったんですが、半年かける本でした。二回目読むかどうかをいま悩んでいる最中です。

でまあどんな話かっていうと、わざとらしく言えば字書き日本舞踊躍り手のハードコア貧困生活記です。ものづくりってやっぱ特別だぜ!!!にもものづくりはクソだぜ!!!にも揺れず、揺れきれずによろめく話です。よろめかずにすむ皆さんはよろめきに思いを馳せ、よろめいている皆さんは足の踏み場所を探しながら、別に救われるためでも報われるためでもなく読みましょう。関係ないけどちょっと新作が書けるような気がしているんですがどハマリしているジャンルとかぶるともう二次創作したほうがよくね……?ってなるやつあるじゃん、今あれなんだよね。どうしよう。なんとか抜け出したい……ような、別になにもしなくてもいいじゃんと思いもするみたいな。やっぱ生きることって疲れるね。